「スタートアップ育成5ヶ年計画」とは何か?
「スタートアップ育成5か年計画」は、日本政府が2022年に策定したプログラムです。
日本国内のスタートアップ企業の育成およびそのエコシステムの強化を目的としています。
現在の経済の礎を築くスタートアップが多く戦後に誕生したのを「戦後の創業期」とするならば、まさに本計画は「第二の創業期」と位置づけられるスタートアップの量産を目指す計画と位置づけられるものです。
新しい技術やアイデアを持つスタートアップが国内外で成功しやすい環境を作ることを目指しています。
計画の目標とその取り組み
計画目標
計画の主な目標は、ユニコーン(評価額10億ドル以上の非公開スタートアップ)の数を増やすことです。
同時に、「数」だけでなく、「規模の拡大(創業したスタートアップの成長)」も達成することを視野に、計画への投資額を設定しています。
スタートアップを10万社、うちユニコーンを100社創出することにより、アジアのスタートアップハブとなることを目指しています。
取り組み
「スタートアップ育成5か年計画」では、次の取組を中心に推進しています。
① スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
② スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
③ オープンイノベーションの推進
① スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
スタートアップを創出するためには、その担い手である人材のスタートアップへの関心や創業がなければなにも始まらないのは事実です。
こうした事実をクリアするために、計画では次のような取り組みを推進することを示しています。
- メンターによる支援事業の拡大・横展開
- 海外における起業家育成の拠点の創設(「出島」事業)
- 米国大学の日本向け起業家育成プログラムの創設などを含む、アントレプレナー教育の強化
- 1大学1エグジット運動
- 大学・小中高生でのスタートアップ創出に向けた支援
- 高等専門学校における起業家教育の強化
- グローバルスタートアップキャンパス構想
- スタートアップ・大学における知的財産戦略
- 研究分野の担い手の拡大
- 海外起業家・投資家の誘致拡大
- 再チャレンジを支援する環境の整備
- 国内の起業家コミュニティの形成促進
② スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
事業の規模・内容によって必要とされるのが創業・運用資金です。
日米でベンチャーキャピタルの投資額・規模を比較したところ、両者には大きな差が生じており(投資額:約160倍 投資件数:120倍 )、アメリカに日本は大きな差がつけられています。
また、ベンチャーキャピタルの投資を受けたほうが、雇用拡大やイノベーションに拍車がかかるとの調査結果があるなどから、ベンチャーキャピタルを介したスタートアップ支援の拡大を目指す取り組みを推進します。
具体的には、次のような取り組みを行っています。
- 中小企業基盤整備機構のベンチャーキャピタルへの出資機能の強化
- 産業革新投資機構の出資機能の強化
- 官民ファンド等の出資機能の強化
- 新エネルギー・産業技術総合開発機構による研究開発型スタートアップ への支援策の強化
- 日本医療研究開発機構による創薬ベンチャーへの支援強化
- 海外先進エコシステムとの接続強化
- スタートアップへの投資を促すための措置
- 個人からベンチャーキャピタルへの投資促進
- ストックオプションの環境整備
- RSU (Restricted Stock Unit:事後交付型譲渡制限付株式)の活用に 向けた環境整備
- 株式投資型クラウドファンディングの活用に向けた環境整備
- SBIR(Small Business Innovation Research)制度の抜本見直しと公共調達の促進
- 経営者の個人保証を不要にする制度の見直し
- IPO プロセスの整備
- SPAC(特別買収目的会社)の検討
- 未上場株のセカンダリーマーケットの整備
- 特定投資家私募制度の見直し
- 海外進出を促すための出国税等に関する税制上の措置
- Web3.0 に関する環境整備
- 事業成長担保権の創設
- 個人金融資産及び GPIF 等の長期運用資金のベンチャー投資への循環
- 銀行等によるスタートアップへの融資促進
- 社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進
- 海外スタートアップの呼び込み、国内スタートアップ海外展開の強化
- 海外の投資家やベンチャーキャピタルを呼び込むための環境整備
- 地方におけるスタートアップ創出の強化
- 福島でのスタートアップ創出の支援
- 2025 年大阪・関西万博でのスタートアップの活用
③ オープンイノベーションの推進
「オープンイノベーション」とは、オープン・イノベーションの第一人者であるヘンリー ・ チェスブロウ教授によると「組織内部のイノベーションを促進するために、 意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、 その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすこと」と定義されています。
オープンイノベーションを推進することで、既存の大企業はスタートアップが開発した新技術を活用することでその成長率を維持することができます。
一方のスタートアップにとっては、大企業が有していない販路や人材・ノウハウなどの提供を受けることで大幅な成長が見込めるという双方にとってメリットを大きく見いだすことが期待されます。
計画では、主に次のような取り組みを推進しています。
- オープンイノベーションを促すための税制措置等の在り方
- 公募増資ルールの見直し
- 事業再構築のための私的整理法制の整備
- スタートアップへの円滑な労働移動
- 組織再編の更なる加速に向けた検討
- M&A を促進するための国際会計基準(IFRS)の任意適用の拡大
- スタートアップ・エコシステムの全体像把握のためのデータの収集・整 理
- 公共サービスやインフラに関するデータのオープン化の推進
- 大企業とスタートアップのネットワーク強化
まとめ
「スタートアップ育成5か年計画」では、大きく3つに取り組みを分け、それぞれについて具体的に内容を定めています。
① スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
② スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
③ オープンイノベーションの推進
計画の背景から、どうしても起業を促進するためのカンフル剤的な取り組みが多く、起業過程で遭遇する様々な困難に対する取り組みは薄い印象があります。
日本人が起業を通じて遭遇する様々なリスクを勘案してなかなか起業に踏み出せないという現状があるなら、セーフティネットに対する取り組みはもう少しあっても良い印象であり、同時にこの取り組みこそが「Reサラ」が担うものなのではとの印象を、「スタートアップ育成5か年計画」を改めて読んでみて抱きました。
本計画は、日本のスタートアップエコシステムを活性化させる大きな一歩であり、今後の進展を引き続き注目し、紹介していきます。
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